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昭和49年(1974)世界初発売(その4)
●《くるくる》の市場デビュー
 
 昭和49年も終りに近づいた10月、先ず金型制作が間に合った平ブラシ、櫛の組み合わせ商品、続いて11月に豚毛を植毛したロールブラシと櫛のくるくるが発売された。
 毎年12月はクリスマスのボーナスシーズンであり、年間で最も需要が高まる。通常全国発売時は店頭に並べる展示用商品の出荷もあり、平常の2倍は最低でも出荷しなければならないが、これらが重なった上、2機種の同時発売で発売当初からEH743は品薄となり、市場の矢面に立っている営業側からは矢継ぎ早に増産要求が殺到した。製品出荷量は金型の保有面数で決まる。EH743の金型は741のものを流用していたから一面しか無い。それで工場では昼夜休み無くプレスを動かしたが全部で月産5万台がやっとである。営業の要求を合すとどうしても10万は造らねばならないが、それが継続性のあるのか、ないのか、半信半疑で事業部長も判断を迷っていたが、営業部長の鈴木 秀(故人)が出張先から電話で絶対継続するという。そこで急遽増面を決心し月産10万台体制をとったが、それでも数が足りない。あとで店を廻ってわかったことだが、店では展示用商品も売り払い、そこには予約客の住所、名が書かれたメモを刺すスタンドが置いてあり、入荷次第電話連絡で店まで商品を引き取りに来てもらう、というような売り方をしていた。

 結局、半年後には月産25万台の生産体制を組んだのだが、これには商品が時流にマッチしてズバリ、ユーザーニーズを突いたことは勿論だが、もう一つ《くるくる》と言うネーミングに加えて「くるくるなら簡単よ!」というCMの効果が大きかった。このCMは松下電工がヒットさせたCMとしては後の「きれいなお姉さんは好きですか」に勝るとも劣らない名コマーシャルだったと思う。
 
 夏のある朝のこと、工場の門の前に1台の見なれないトラックが止まっていた。話しを聞くと東北は郡山市からくるくるが足りないので堪らず夜通し運転で工場に引き取り交渉に来たという代理店のトラックだった。社長の野地信行さん自ら工場に乗り込んでの談判でくるくるを分けてもらおうと言うのだがその日の出荷先はすでに決定済みである。朝までの数時間、蚊に刺され、警官にも怪しまれ、開門待ちして頂いた成果はたったのくるくる25台だったという。語り草になっているが、くるくるの電話応対で連日連夜、喧騒の極みに達していた営業部が今は懐かしい。
 
 折しも当時はオイルショック直後で不況の真っ只中、くるくるは1機種で松下電工全社の2分の1に相当する利益を稼ぎ出したのであった。

●《くるくる》をブームに終らせないために

 このようにオリジナル商品EH743は好評だったが、商品企画ではこの商品がこれほどユーザーに支持されるのなら、本格的に金型を造りなおして商品としての満足度を高め、やがて他社がコピー商品の発売を考えるはずなので、どのメーカーも作れないような本格商品を作ろうとEH733の開発と取り組んだ。特に本体の握りを細くし、指の短い女性に扱いやすくした。またコードの引き出し部は回転自由とし、ねじれに強い構造をはじめて採用した。このEH733は文字通り、本格ヒット商品となり、第1世代ヘアスタイラーの決定版としての位置付けを確立したが、われわれは733をしてもまだ、ユーザーの要求を100%満たしていないことに気がついた。それは洗髪後の乾燥力に対する不満とロールブラシからブローブラシの使用への好みの変化への対応である。

 乾燥力を上げるには風量、熱量の増大は避けられない。しかし、最終的にはすべてそれまで引いてきたモデュールを変えてでもこれは成功させなければならないとの確信を得たので、EH755の開発に踏み切った。握りは限りなく細くすべきだとの上からの指示は当て馬商品を作りながら(これは全く売れなかった)、EH755は逆に風の通り道を広げ、握りには抵抗を感じさせない、楕円と逆Rの構造を取り入れ、熱量、風量を約2倍以上に強化した。
 
 他社の追随を許さぬ次次と放つ戦略需要開発、市場リード商品によって、Nationalくるくるのシェア-は普及率が50%を越えてもなお60%以上のシェア-を維持していた。のみならずブランドの《くるくる》は商品の代名詞的な位置付けを確立していたのである。

 今日の製品開発マーケティングで言われるところの理論そのものをまさに実際に具体的に実践したのがこの《くるくる》である。マーケティング理論を編み出した人は多いが、ここまで戦略理論にそってまさに市場創造を果たし、市場寡占化を成功させた商品は少ないと思う。後日、日本で生産を中止したEH755を台湾メーカーの達新がそっくりコピーして作ったものが台北の百貨店で売られているのに出会い、しげしげ見入っていたら、店員が、これ今台湾で一番人気あるんですよ。お土産にいかがですか。と声をかけてきた。ここまで広がった《くるくる》、今や韓国、中国、シンガポール、中近東にも広がっているが、アメリカやヨーロッパは髪質やヘアースタイルの違いからか何故か普及していない。チャンスがあれば今度こそアメリカ女性、欧州女性にヒットするヘアー手入れ器具づくりを成功させたいものである。

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