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生まれ

●EH743
 
《くるくるドライヤー》と命名されたこの運命的な商品は前述の通りEH741ヘアードレッサーという商品のアタッチメント部分をメンズ用のブラシからロールブラシに変更したものである。
 1974年4月私は新製品の企画ヒントを探すという名目でヨーロッパ、特にパリに向かった。いつも海外出張は経費もかかるので何らかの成果が期待される。このころまでは大抵、探しに行けば日本で発売されていない何か珍しい商品が手に入ったが、もうこのころからはそういうものも見つからなくなり、ヒット商品を考案するための参考的な情報を集める、またはそこで自分で考え出すという旅行になっていた。

 だから成果が何も無かったと言われないよう、新製品の構想はすでに出発前に考えていた。私はパリに着くと有名なオペラ座近くにあるギャレリーラファイエットとオープランタンの2つの百貨店に向かった。そこで化粧品売り場の片隅にある櫛売り場に行き、片っ端からサンプルになりそうなブラシを1点づつ数種類抜き取り、売り子のおばさんに差し出した。おばさんは珍しい東洋人の学生然とした男が何やら英語でぼそぼそ言っているが、意味がわからないらしく、早口のフランス語で一体このたくさんのブラシをどうしようというのだ、と手を広げて尋ねるがさっぱり意味が通じない。そこで困ってポケットから持ち金を出して見せたら、ようやく、ああこれを全て欲しいのだなとわかってくれて、急に愛想良くなり僕をレジの方に案内してくれた。かれこれ10本はあったろうか、その中に後のロールブラシの原型になるものが含まれていたのである。

 帰国して早速私は河内先生を訪ねた。それらから採用すべき最善のブラシを選んで頂くためだった。先生はその中の一つを取り上げ、ロールブラシの中で欧州のスタンダードとなっているものはこれです、と教えてくださった。毛足17ミリで8列植毛のこのブラシは実用試験でも最も評価が高かった。そこでわれわれはこれをアタッチメントづくりの参考基準として採用した。

●くるくるしない《くるくる》

 こうして企画は固まり、快調に10月に年末需要を見込んだ発売を果たすべく発売準備に入った。ただ心配な点はアタッチメントを変えただけで、新商品としての画期的な新鮮味が無いことだった。特に女性層へのアピールを考えると何か新しい愛称がほしかった。そこでマーケティング担当のTさんにネーミングを考え、営業サイドの意見をまとめるように依頼したら、程なく《くるくるドライヤー》にしたいと言ってきた。これには正直参った、というのはこれはカーラーと違ってくるくる巻いたりしないでヘアスタイルが作れるのが売りの商品だからである。しばらくそういう名前で良いのかなあと迷っていたが、営業責任者のS氏も大変気にいっているというし、ネーミングは理屈で決めても面白くない、なんとなくみなが納得するならそのフィーリングで行くべきだと考えボクも妥協した。


 くるくるが今日のようにポピュラーな商品になったのは名前が身近で誰が使ってもおかしくなく、変な外来語よりよほど日本人に馴染みやすかったからだ。くるくるは自社商品の愛称だが、「くるくるなら簡単よ」の宣伝が大ヒットして代名詞化を果たした。近年、業界ではわけのわからない愛称が多く用いられ、大量宣伝で何とか他社との差別化を図っているが、これが非効率を招いていることに気がついていないのは大変残念である。

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